<労 務 相 談 室>
【未払い残業代に付加金?】
<質 問 > 「倍返し」の義務あるか
◆ 退職した従業員から、「未払いの残業代があるので請求する」旨の文書が届きました。賃金計算から漏れていた労働時間があるか否か、これから検討するつもりですが、それ以前の問題として、「労基法第114条の規定に基づき残業代と同一額の付加金も要求する」と書かれてあるので困惑しています。「倍返し」の義務などあるのでしょうか。
<回 答> 裁判外で支払う必要ない
◆ 付加金は、労基法第114条に規定されています。「裁判所は、労働者の請求により、未払金のほか、これと同一額の付加金の支払いを命じることができる」という文言が用いられています。「同一額」ですから、本来の未払い金とあわせて、原則的には「倍返し」となる理屈です。
付加金の対象となるのは、すべての未払金ではなく次の4つの場合に限られます。
①解雇予告を支払わないとき(労基法第20条)
②休業手当を支払わないとき(同第26条)
③割増賃金を支払わないとき(同第37条)
④年休の賃金を支払わないとき(同第39条)
お尋ねのケースでは③の割増賃金の未払い分に併せて付加金も請求するという趣旨のようです。
しかし、未払いの割増賃金等があれば、労働者は自動的に付加金の支給を求める権利があるわけではありません。付加金の「支払いを命じることができる」のは裁判所で、法律違反があり、労働者の請求があったからといって、必ず支払いを命じるとは限りません。「(賃金の未払いについて)その違法性を阻却し、または責任を阻却する原因がある場合には、命じ得ない」ものと解されます。
付加金制度では、裁判所の命令をもってのみ付加金支払いが義務付けられ、裁判外における倍額請求権は認められていません。裁判外で、いたずらに紛糾を生ぜしめるおそれがあるからです。お尋ねの請求文書が「裁判で請求する」という意味でなく、貴社に直接支払いを求めるというのであれば、法的根拠がありません。